韓国での反北ビラ散布に激怒した金与正氏らが提起し、朝鮮人民軍総参謀部が立案し、朝鮮労働党中央軍事委員会に提起された対南軍事行動計画が予備会議で保留された。
党中央軍事委員会委員長でもある金正恩朝鮮労働党委員長が参加したこの会議。保留は金委員長の意思だ。
なぜ振り上げたこぶしをおろさせたのか、金与正氏のメンツがつぶれないのか、国内で弱腰とみられないか、それなら南北共同連絡事務所を爆破する意味はなかったのではないか、、、様々な疑問が持ち上がっているようだが、常に合理的な北朝鮮。今回も想定内で事を進めている。
それなら、一連の南北のいざこざによって北朝鮮はいったい何を得たのだろうか?
それを知れば、金正恩氏が計画を保留した意味がわかる。
まず大前提として、常々当ブログが訴えているように、北朝鮮の目標は「チュチェ革命偉業の完全勝利」。その内訳は、①社会主義強国建設、②祖国の自主的平和統一、③世界の自主性実現ーーーということ。なかでも②の統一は、金日成主席の遺訓であり、8千万朝鮮民族の宿願でもある。統一なくして朝鮮民族の明るい未来はないーーーこれが金正恩氏の行動を規定する。
ただ金正恩氏が描く統一の方法は先代と異なる。「自主的平和統一」のうち「自主」に重きが置かれているのだ。平和は二の次だ
北朝鮮が主張する「自主的統一」とは米国など外勢を排除した北と南による統一だ。しかし北朝鮮は米国と停戦状態にある。韓国には米軍が駐留し政治経済的にも米国に依存している。米国ぬきに統一することは事実上不可能だ。なので北朝鮮は米国と何度も対話し平和的にゆるやかに統一できるよう模索してきた。
しかし、前進しない朝米対話、制裁によって国の発展が止められるもどかしさ、金正恩氏は一気に統一を進める道を目指した。それはつまり実力行使。南を一気に占領する軍事行動だ。それには米国の排除が重要だ。
金正恩氏は核ミサイル開発を急ピッチに進めた。核とミサイルがあればどんな国も手出しできない。
狙い通り、トランプ米政権は一時の緊張が嘘のように対話へと舵を切った。トランプ大統領は駐韓米軍の撤退も口にした。朝鮮戦争を終わらせるという名誉に興味を抱いた。
北朝鮮はもう一歩のところまでいったが、結局、終戦宣言、不可侵条約、制裁解除、何も得られなかった。
かくして金正恩委員長は米国にタイムリミットを通告。2019年末の会議で「正面突破」政策を打ち出した。
コロナは北朝鮮に時間を与えた。この間、北朝鮮は「新しい戦略武器」の開発を促進。「自主統一」のための作戦を練り上げ、軍事的、物質的、思想的な準備を着々と進めた。
コロナ渦の2、3、4月に北朝鮮は様々な軍事演習の実施を発表している。そのすべてが対南打撃訓練だ。
コロナ渦の2、3、4月に北朝鮮は様々な軍事演習の実施を発表している。そのすべてが対南打撃訓練だ。
長々と背景を整理したが、ここまでくれば冒頭の疑問の答えが見える。
一連の南北のいざこざによって北朝鮮はいったい何を得たのだろうか?
- 板門店宣言、平壌共同宣言、軍事合意などによって軍事境界線から武力が撤収されていたが、今回の南北いざこざで宣言や合意は破棄されたことで元に戻った。北朝鮮はさらに金剛山や開城、西海の境界海域に軍を展開。臨戦態勢を整えている。
- 韓国の対米追従の象徴である韓米ワーキンググループについて批判することで、韓国国内での無用論をたきつけることに成功している。北朝鮮が騒いだら韓国が米国に相談するという構図は今回も鮮明に表れた。北朝鮮が最も忌み嫌う行為だ。韓国にも反米グループがいるし、これが反与党と相まって文政権周辺はざわついている。北朝鮮の狙い通りだ。
- 韓米の諜報能力、対決意志についても確認することができた。脱北者批判をすることで脱北者間の対立、脱北者と韓国国民の対立という構図を表面化することができた。補足説明すると、脱北者の家族が北にいる。反北言動で注目を浴びる脱北者とは反対に、北に家族を置き、北にシンパシーを抱く脱北者の言動はあまり表にでてこないが、いざ対決となった場合、彼らの行動を予測することはできない。
そして、韓国を占領する火力が質量ともに整ったことも忘れてはならない。
これも当ブログで何度も指摘されてきたが、本気で韓国や米国に戦争して勝とうとしている。彼らの勝利とは南北統一だ。
核と長距離ミサイルによって米国を牽制。中短距離ミサイルと地上部隊によって韓国を占領するシナリオ。金正恩氏が練りに練った統一シナリオだ。
まともに食えない北朝鮮がどうやって米国や韓国に勝つのかという前近代的な考えはやめにしよう。
軍事技術は日々進歩。戦争のやり方も変わってる。
過去の戦い方では、韓国を占領するには敵部隊を一つ一つ潰しながら各都市を占拠していくことが基本だった。
しかし今は、ありったけの火力を一斉に打ち込み敵の基地やインフラ要衝を叩き潰して一斉に都市を占拠するという戦い方。縦深同時打撃だ。
ソウルに一発でもミサイルが打ち込まれたら、韓国国民の士気は一気に下がる。基地やインフラが一斉に攻撃されたらどうなるか。勝敗は明らかだ。
攻める側の北朝鮮はどれだけ攻撃されても地下にもぐって着々と統一シナリオを遂行する。全国民が戦争の訓練を定期的に行ってきた。サバイバルには長けている。
そんな夢のようなシナリオは実行できないと反論する人がほとんどだろうが、駐韓米軍が大打撃を食らって、米軍が本当に反撃するだろうか?
日本の基地から攻撃する?そうなれば日本も北朝鮮のミサイルの餌食になる。
米国が北朝鮮に核を打ち込む?北朝鮮の核ミサイルも米本土に到達することを忘れてはならない。
さらに朝鮮半島で核が使用されたら中国がだまっていない。
北朝鮮はどれだけ攻撃されても地下にもぐってゲリラ戦にも耐えられる。電気、水道、食料がなくてもいくらか耐えられる。
韓国や日本は一日たりとも耐えられない。大混乱だ。
突拍子もない、非現実的な妄想を語っているのではない。(過去の投稿を読み漁ってほしい)
事実だからトランプ大統領は対話に応じたし、文在寅大統領は南北合意よりも対米追従に走っている。
ではタイトルにある質問に戻ろう。
金正恩氏はなぜ対南軍事行動計画を保留したのか?
南を占領するための軍事行動の障害をいくつか取り除くことができたし、文政権の対米追従、対決回避の姿勢を確認したからだ。
あとは統一シナリオさらに確固たるものにする「新しい戦略兵器」の開発を急ぐのみ。
それが完成し公開した時の米韓の反応しだいでシナリオは実行される。